【中野人インタビュー】劇画家 さいとうたかをさん

昭和30年のデビュー以来、劇画界のトップランナーとして走り続ける、さいとうたかをさん。中野を仕事場にして半世紀が経ち、82歳の今も「ゴルゴ13」「鬼平犯科帳」の連載に全精力を傾ける“我らがヒーロー”に、中野でのエピソードや作品に対する思いについて、お話いただきました。

静かな環境にひかれて
中野という場所に仕事場を

さいとう先生率いる「さいとう・プロダクション」が国分寺から中野に移転してきたのは昭和42年(1967年)。以来50年以上、中野区内を仕事場にしています。
「中野を仕事場に選んだのは、仕事がしやすい環境だから。一番静かな気がしたんですよ。元々の仕事場は国分寺にあり、そこから最初に移ったのは『十貫坂上』。それ以来、中野区内をうろうろしています。昔は何もないところだったのに、最近はずい分変わりました。でも今、仕事場がある場所も大久保通り沿いなんだけど、その割りに静かなんですよ」

十貫坂上にいた頃、さいとうさんが行きつけだったのが純喫茶「エイト」。「1日1回は必ず行って、考え事とかしていて。私もうちのスタッフもみんな入り浸っていました。最初『エイト』のママは私がゴルゴ13の作者の”さいとうたかを”だって、長いこと知らなかったんです。うちにいたスタッフの誰かと勘違いしていたようで。でも僕が”さいとうたかを”だって誰かから聞いたみたいで、いつの間にか本人として認識されるようになっていました(笑)。私はコーヒーが大好きなので、近所に喫茶店があるってすごくいいんですよ。でも今の事務所の近くには喫茶店がないのが少し残念です」

作品が何年経っても色あせないのは
全ての概念や常識を“その時代”で考えないから

先生の代表作のひとつ「ゴルゴ13」は、今年(2018年)で連載50周年を迎えました。連載当初から現在まで、変わらない魅力の秘密はどこにあるのでしょうか。
「しかし、よく50年もやったなと(笑)。自分でも奇跡だと思います。最初の頃は誌面も本も少なくて、誰かが載ったら誰かが落ちる、という世界だったもので、依頼があった時は必死で描いたし、絶対に断りませんでした。もう必死になって60時間仕事をして(!)原稿を渡したら4時間だけ寝させてもらって、それからまた48時間描き続けるとか。無茶してましたね」

ここまで続いた理由として、”全ての観念や常識をその時代で考えていないから”だと、さいとうさんは話します。「たとえば善悪なんかでも、その時代ごとに変わっていくでしょう。戦前は『米英撃滅』とか校舎に書いてあったのに、戦争が終わったら突然『これからは仲良くしましょう』とか言い出すわけですよ。それに、私がカエルのお尻にストローを挿して膨らましていると、大人が『なんて残酷な事してるんだ!』とか言う。ところがその大人たちは魚の目を串刺しにしてミイラこしらえて、それを平気で食べている。「なんなんだこれは!」っていう子ども時代を送ったので、大人が信用できなくなったんです。
あと、子どもの頃、友だちがスポーツ選手や役者のブロマイドを持っているのを見て、不思議で仕方なくて。『そんな知らない人の写真を持って、何が楽しいんや』って感覚だった。だから『その時代で考えない』姿勢というのは、子どもの頃からあって、それは今も変わらないんです。

例えば、ゴルゴの人間性を聞かれることがあるんですが、ゴルゴの仕事は完全な社会悪ですよね。でも仕事が終わって足を踏み出した時、足元にアリが一匹いたら、慌てて跨ぐかもしれない。彼(ゴルゴ)にとって、人間の命もアリ一匹の命も一緒なんです。そういう感覚で描いているから、何とか50年も読んでいただけたんじゃないのかなと。その時々の常識と決まりごとだけで書いていたら、その時代で終わってしまう。だからそれぞれの時代に即して描かれた50年前の作品って、今はみんな色褪せてしまっている気がするんです」

連載50周年は“折り返し地点”!?
健康に気をつけて、これからも頑張ります

「ゴルゴ13」がここまで長く続けられた理由のひとつに挙げたのが、”42歳の時になった糖尿病”。「当時、体重が100kgもあったけど、私たちの世代は太っていることに危機感がなかった。昔は栄養失調みたいな連中ばっかりだったでしょう。だから太っていることは健康のバロメーターぐらいにしか考えてなかった。それで糖尿病になって入院中に病院で本を2冊読まされて、初めて『太っていることは病気なんだ』と知って。それで1カ月半の入院中に27kgも体重を落としたんです。それ以来、体のことを構うようになりました。太っていた頃は、カロリー計算すると3人前食べるのが当たり前(笑)。自分と同い年くらいの同業者はみんな不摂生して、短命な人が多いけど、私は病気して以来、体のことを気にするようになり健康なのも、長く連載を続けられる秘けつなんじゃないのかなと思ってます」

「ゴルゴ13」が連載50周年を迎えた今年、イベントへの出演など多忙な日々を送るさいとうさん。
最後にみなさんにメッセージをいただきました。「ただただ、ありがとうございました。よくぞ長い間、ご支持いただきました。自分でもこんなに長く続くとは思いませんでした。この間、担当編集者に『50年だな』って言ったら、『先生、折り返し地点ですね』って言われて。なのでこれからも健康に気をつけて頑張ります。描くスピードは昔の1/4になってしまいましたけどね(笑)」


【中野のお気に入りスポット】
紅葉山公園

長年、中野で仕事をしているのに、仕事ばかりして全然出歩かないから、どこに何があるのか、皆目分からないんですが、雑誌の取材を受けた時に、編集者のアイデアで近所の「紅葉山公園」で撮影をすることになって。昔の紅葉山公園は蚊がすごかったから、「あんな所で散歩する訳ないだろう」って思ったんですが、実際に行ってみたらすごくきれいに整備されていて。近所にこんなきれいな公園があるんじゃないかってびっくりしました。

住所 中野区中野2-5
アクセス JR中央・総武線・東京メトロ東西線「中野」駅から徒歩7分
https://www.visit.city-tokyo-nakano.jp/category/nintei/nature/335

 

 

 

今回の中野人
さいとうたかをさん

 

 

 

 

 

劇画家1936年和歌山県生まれ。1955年「空気男爵」でデビュー。貸本向け漫画誌の中心的な存在として、大阪で精力的な活動を続ける。1960年「台風五郎」の大ヒットで不動の人気を獲得。その後、活動拠点を東京に移し、「さいとう・プロダクション」を設立、作品制作過程における分業化をはかり、脚本部門を設けるなど、プロダクション形態の劇画制作システムを構築。自他共に認める劇画の第一人者である。1975年に第21回小学館漫画賞、2002年に第31回日本漫画家協会賞・大賞を受賞した「ゴルゴ13」は、現在も描き下ろしが続く、記録的な長期連載作品。2003年に紫綬褒章、2004年に「ゴルゴ13」で第50回小学館漫画賞審査委員特別賞受賞、2010年に旭日小綬章受章。他の作品に『鬼平犯科帳』『仕掛人藤枝梅安』『影狩り』『無用ノ介』『サバイバル』『雲盗り暫平』などがある。社団法人日本漫画家協会参与

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