【中野人インタビュー】ポレポレ東中野 支配人 大槻貴宏氏

1994年にオープンした「BOX東中野」の閉館後の跡地で、一貫して良質なドキュメンタリーや新人監督の映画を上映する映画館「ポレポレ東中野」。今回は2003年のポレポレ開館から16年にわたって支配人を務める、大槻貴宏さんにお話を伺います。

新海誠監督作品を初めて上映

—まず、大槻さんを語る上で欠かせないことが、彼が支配人を務めるもうひとつのミニシアター、「下北沢トリウッド」において、新海誠監督のデビュー作『ほしのこえ』を日本で初めて興行として上映したということ。現在、新海監督の作品を配給する大手映画会社も、新海監督の過去作の上映について、トリウッドに融通を利かせてくれています。

「最初、『彼女と彼女の猫』という作品が99年のDoGAさん(プロジェクトチームDoGA。個人製作CGアニメの普及のための活動をする非営利団体)のコンテストでグランプリを取って、その上映会に行った妻から『面白いのがあったよ』って聞いたのがきっかけですね。ビデオ見て、確かにおもしろいんだけど、4分しかないから。それでDoGAの人と相談して、4本ほど短編を集めて、30分くらいのプログラムにしてトリウッドで上映しました」
「ある平日の夜、お客さんが一人しかいないことがあって、それが新海さん本人だったんですよ。そこで『本当にすごい作品だと思うけど、やっぱりこれ(客が彼一人)が現実だよね、観てもらわない限り、世の中にないのと一緒だよね』という話を2人でしました。そしたら今『ほしのこえ』っていう30分くらいのを作るということで、じゃあそれを上映しよう、ということになったんです」

—ところで、下北沢トリウッドの開館は1999年。大槻さんは若干32歳でどうやって一人で映画館開業という事業を立ち上げたのでしょうか?

「そのことについては、教えている学校でも学生みんなが関心持ってくれますよね。映画館を開業するには、普通のお店とは違って、防音やら消防設備やらで4000万くらいかかる、と。別に実家が金持ちとかいうこともないので、融資を受けるしかありませんよね。あのころベンチャーブームで、通産省から助成金を500万ほど受けられたんですね。それで信用が生まれ、銀行から残りを借りることができました。当時の通産省(現在の経済産業省)の担当から今でもたまに連絡がきますよ。『まだ続けてらっしゃいますか?』って(笑)。あのころ助成したベンチャー企業はもうほとんど残ってないらしいです」

「BOX」を引き継ぐ映画館の支配人として東中野へ

地下にあるポレポレ東中野映画館ロビー

—2003年、中野区唯一の映画館、「BOX東中野」が閉館し、「ポレポレ東中野」に変わるにあたって、ビルのオーナーと共通の知り合いがいた大槻さんに支配人応募の案内がきます。

「正確には、マネジメントする人材を公募していて、その共通の知り合いから『面白そうだからやってみれば?』って言われて面接受けて、下北沢の支配人も続ける、という条件で就任することになったんです。ドキュメンタリー映画館、というBOXのコンセプトは引き継いでいます。あれだけカラーを作ってくれていたじゃないですか。それはありがたいことだし、そこで変にひねくれて自分のカラーを出そう、なんて思わなかったですね」

映画を観るだけでなく、体験する「場」に

「『ポレポレ』(スワヒリ語で『ゆっくりゆっくり』の意)はビルのオーナーが付けた名前なんですけど、映画を観るだけでなく、ゆっくり時間を使って体験する場にしよう、というのはトリウッドとも共通するところでした」

—就任以来、大槻さんが続けているのが、必ず映画の作り手と直接話をしながらプログラムや上映時期を決めている、ということ。そして体験する『場』にするために、制作者やコメンテーターによるトークショーをなるべく開催することです。

「まず映画が面白くなきゃいけないのは最低限当たり前のことで、さらにこの映画館は・・・、なんていうんでしょう、例えば東宝さん配給、となったらそれは流通に乗った、と言うことができますけど、ここはいわば製作者と直接の小売ですから、作っているあなた方も売り手として本当に観てもらいたい、という情熱を観客に伝える努力をしてほしい。そうしないと興行は難しい、という意識を共有するようにしています」
「ポレポレさんにはお客さんが付いているから、と言われても作品が面白くなかったら観られないんですよ。あとは時期ですね。例えば一人で3年くらいドキュメンタリー作っている人に、公開はいつでもいい、って言われてもそういうわけにはいかないですよね。撮る、作る、は時期と無関係でもいいのかもしれませんが、観せる、となったらタイミングも重要です。そこは作り手も一緒に考えてほしいと思いますね」

多様性のある、面白い世の中に、日本がなってほしい

1階は映画関連書籍も豊富に揃うカフェ。

—これからのポレポレについて伺う前に、これまでポレポレで上映した作品の中で、一番印象に残っている作品は何か、も伺ってみました。

「ドキュメンタリーじゃなくて申し訳ないんですが、開館の年に上映した、荒戸源次郎監督の『赤目四十八瀧心中未遂』という作品です。(荒戸源次郎は、80年代に『ツィゴイネルワイゼン』で制作から興行まで一貫して独自に行うシネマ・プラセットを立ち上げた人物)監督が映画館を見にきて、すごくいい、と。だけど最前列が観にくいから、床を掘って低くすることはできないか、とか、ビルを真っ黒に塗れないか、とか平気で言ってくるんですよ。面白いなー、って思って(笑)。さすがにそれは無理だから、できることをいろいろ話して、結局、初日に100本くらいのノボリを立てたんです。外にも、フロアにも。なるほど、こういうことをするんだ。さすが興行師だね、って思って。その後の気構えみたいなのを教えてくれたと思います。あれで何を聞いても驚かなくなった(笑)」
「でも、そういう、やりたいと思ったら120%くらいの気持ちを相手にぶつけようと思うのは大事ですね。その後の話し合いで現実度は下がってくるものなので。映画制作も最初の企画書はものすごいもの作っておかないと制作しながら減ってっちゃうものじゃないでしょうか? 最近はそういう一見無茶な希望を言ってみる人が少なくなってきました。なので、われわれがそれをやろうと思って。逆に無茶な提案を監督さんにするようにしています。何かを次世代に伝える、っていうのはそういうことなんだろうな、と思います」

—ポレポレでは、ドキュメンタリー中心であることは守りつつも、上映する映画のジャンルや路線は比較的問わず、面白いかどうか、作り手の意思がどうか、で作品を決めているといいます。

「観る人も作る人も、それぞれのジャンルのオタクになってほしいな、って思います。それが、日本がより多様性のある面白い世の中になる道のひとつだと思っています。そんな人を増やす役目をこの映画館が担えたらいいですね。そして今の状態を継続したい。上映してほしい、という人たちが来てくれて、僕らが観て、ああだこうだ話し合ってプログラムを決めて、観たい、っていうお客さんが来てくれる。このサイクルを続けるのは簡単そうで難しいんです。小売としては、売れないのはさほど怖くない。売るものがなくなっちゃうのが怖い。もしそうなったら自分から探しに行くとは思いますけど」

 

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今回の中野人
 
大槻貴宏(おおつき たかひろ)
1968年長野県長野市生まれ
大学卒業後、米コロンビアカレッジシカゴの映画テレビ学部に学ぶ
1994年帰国後、専門学校の講師などを経て1999年「下北沢トリウッド」を開館
2003年から「ポレポレ東中野」支配人

★ ポレポレ東中野について詳しくはコチラ