【中野人インタビュー】中野区立中央図書館 館長 廣瀬幸子氏

都内でも屈指の蔵書数、施設規模を誇る中野区立中央図書館
今回は図書館司書として長いキャリアを持ち、2018年からこちらで館長を務める廣瀬幸子さんにお話を伺いました。
中央図書館については「ステキな1冊に出会おう!中野の図書館特集」も合わせてご覧ください。

アイウエオより、本が先

―お仕事はずっと図書館司書一筋でいらっしゃいますか?

「最初は東京特別区の職員として、区立図書館の仕事に携わりました。その後一旦退職して子育てに専念したり、一般の企業で働いたりもしたんですが、子供が大きくなって落ち着いた頃に、自分にとって楽しい仕事、最後の仕事はなんだろう、と思っていた時に、ちょうど現在所属している図書館運営の業務を行う会社から話がありまして」

―当然、本好きでいらっしゃいますよね?

「そうですね。小さい頃から。アイウエオも読めないうちから本に囲まれて育ちましたので」

―ご両親の影響ですか?

「兄です。私は上に兄3人、下に弟が1人という男兄弟に囲まれて育ったんですが、次兄が非常に読書好きで、その兄に感化されたのが大きいですね。昔のことですから、一部屋に7人家族みんなで暮らしていた中、子供たちにはそれぞれ自分のコーナーがあって、私はお人形さんとか並べているわけですが、その兄のところには本棚があって、いつも何か調べたりしていたんですね。それで私も読みたくなって」

―お好きな本のジャンルというと?

「基本、雑多でなんでも読むんですが、子供の頃から自然科学分野の本であったり、歴史もの、特に日本史がすごく好きでした。小学生の頃、邪馬台国と卑弥呼の話が流行ったときには3年生くらいで一般書まで読みあさったりしてましたね。これも兄の影響でしょうが、本で何かを調べる、という行為が好きで、図鑑や事典を常にそばに置いていました。一方で『秘密の花園』や『小公女』など、女の子らしい本も読んでましたよ」

「小説もたくさん読みます。今あらためて注目しているのは北村薫先生。覆面作家としてデビューした頃から注目しているんですが、一枚の絵の中から物語が広がっていくような感じのストーリー展開が素敵ですね。マンガですと、年代的には萩尾望都さん、竹宮恵子さんですとか。『ポーの一族』(萩尾望都)は今でも私のエネルギー源です」

「これなんかも40年以上うちの本棚にあります。ローラ・インガルス・ワイルダー(『大草原の小さな家』など)の本。小学校2年くらいで読破してしまいました。その後映像作品が放映されて有名になりましたけど、この本(この日お持ちいただいたのは『大きな森の小さな家』。『大草原~』と同じインガルス一家の物語)の中で私が一番好きなのが、豚を解体して余すことなく使うシーンなんです。最初に読むとショッキングなんですが、何度も読み返すうちに、『あるもので暮らす』ということの大切さを学べたと思います」

―やはりレパートリーが広いんですね。きっと読まれるスピードも早いですよね?

「小説などですと、早く結末が知りたくて、1日か2日でいっきに通読しますから、最初は確かに早いです。ただ、その後にプロットをつなげるために必要なところを再度読み直して、少し置いてから時間をかけてもう一回ゆっくり読みます。三回以上読まないとダメなんですね。仕事で読まなきゃいけないものにそこまで時間をかけるわけにはいかないですが」

 

利用者と図書館員の距離が近い、中野の図書館

―こちらの図書館は、まるで高級書店のように設備も充実していますが、本好きの館長のご意見として、書店と図書館の違いってなんだと思われますか?

「一つは、同じ平積みしている本でも、書店さんは短期的に売りたい本、図書館は長い期間がかかってもいいので、多くの人に読んでもらいたい本、というところがあると思います。よく、古い本がテレビで紹介されたりして再販が決まるということがあると思いますが、そういう本は、再販される前にたいてい図書館にはあります」

中央図書館地下2階にある巨大な閉架(オープンにしていない書庫)。中野区内全100万冊の蔵書のうち、中央図書館には約50万冊、そのうちこの書庫に約30万冊が保管されています。

「それと、図書館には経験豊かな司書がいますので、所蔵していない本も含めて皆さんの『調べたい』『わからない』を解決するお手伝いができます。書架を自分で探す醍醐味と、司書と力を合わせて探す醍醐味を両方楽しめる、ということでしょうか」

資料相談コーナーでは調べたいテーマに合わせた資料の検索などについて的確なアドバイスをくれます

―図書館司書としてのご経験が豊富な館長にとって、中野の利用者の方たちの特徴、というのはありますか?年齢分布とか

「全般に図書館を大切に思っていただいていて、図書館員との距離が近いな、とは思います。お声がけなども非常に温かいものをいただいている印象ですね。年齢分布という意味ではさほど他の地域と変わらないでしょうか」

―一般的な図書館利用者の年齢分布、というのは何かパターンがあるのですか?

「サイクルがある、と思います。子供の頃によく来て、10代、20代で凹んで、30代、40代のファミリー層でまた山があって、子供さんが大きくなる頃にまた凹んで、子供さんが巣立った後にまた山がある、という感じです」

「図書館にはマンガをあまり置いていないので、10代で一度凹んでしまうのですが、中央図書館ですとYA(ヤングアダルト)系列の作品を多く所蔵してます。また、中学校と共催して『知的書評合戦=ビブリオバトル』というイベントを実施しています。これは中学生達がプレゼン方式の3分間で本の魅力を語り、それについて参加者が評価するというイベントです。このような活動を通して10代の来館者数を上げるよう取り組んでいます。」

本の分類を超えて作家別に並べられた棚は中央図書館の伝統

「また日本の図書館では、NDC(=日本十進分類法)に基づいて書籍を分類し、書棚を分けているケースがほとんどですが、中央図書館では文学のコーナーはNDCに依らず、作家で書棚を分けています。例えば、同じ作家の小説と評論は共に文学(=9)ですが、その下の分類番号が変わるので、書棚は分かれます。中央図書館では作家ごとに分けて書棚にまとめることを伝統的に行ってきました。 書いた作家も評論された作家も著名な場合などは分類に悩みますが、その本の主題をどうとるか、などは司書の力量が試されるところですね。」

背の低い本棚が並ぶ児童書コーナーもとても広々

―企画展示や特別展示のお話は先ほど館内をご案内していただいたところでご紹介いただきましたが、なかのZEROと併設されている事で何か特徴的な事はありますか?

「イベントと連携した展示というのはよく行っています。毎年ZEROを会場に『中野区伝統工芸展』が行われますが、その時には関連した資料を展示したり、工芸展はだいたい3日間なので、その後時間を置いて、図書館でも絞り染めの反物ですとか、一部作品をお借りして展示したりもしています」
※新型コロナウィルス感染症の影響により今年の『中野区伝統工芸展』は中止となりました。

 

デジタル書籍と図書館の未来

地下1階と2階にあるタッチパネル式サイネージでは新着本、おすすめ本の案内などが表示されます

―デジタル書籍も一部閲覧できるようになっていますが、今後の図書館におけるデジタル化の流れ、というのはどうなるとお考えですか?

「都内でも一部貸し出しを行っているところもございますので、選択肢の一つであるとは認識しておりますが、まだまだコンテンツ数が少ないので、すぐにはお答えできない感じですね。図書館で蔵書を勝手に電子コンテンツに置き換える、というのは著作権法上できませんし。『青空文庫』のように、著作権が切れたもので電子図書館を運営する試みは他で始まってはいますが」

「ただ、中野区立図書館でもデジタルアーカイブ化という業務を行っておりまして、例えばこの『中野の昔話』。これは中野区が出版したものなので、著作権が区にありますから。こうした業務は図書館の役目です」

「利用者の少なくなる10代の方たちに語りかけるには非常に有効な媒体ではあると思いますから、デジタル化が今後進んでいくのは間違いないと思います」

―遠い将来は図書館の蔵書の半分くらいが電子化されたりするんでしょうか

「海外ではすでにそういったところもあると聞いていますし、きっとなってしまうと思うんです。今は子供の頃からスマホのようなメディアに親しんで育っていますから、電子の方が読みやすくて読書好きになっていただけるのでしたら、メディアにこだわる事はないですよね。それこそメガネをかけたらそこに本がある世界でもいいわけです。 でも私はその時代にはいないかな…(笑)」

―コンテンツだけでなく、メディアとしての本がお好きなんですね

「もう全てですね。作家さんも編集者さんも、装丁された方も、印刷された方も…本を作った人全ての気持ちを含めて『本を跨ぐな』って言われて育った世代ですから」

気軽に電子書籍にふれられる中央図書館タブレットコーナー

 

絵本は年齢に関わりなく何度でも読んでほしい

―館長が今おすすめの本、というのはありますか?

「毎年、読書のテーマを決めて自宅に小さな本棚を作るんですが、今年は子年で、主人の干支でもあるので、この『ねずみくんのチョッキ』を最初に並べました。今年30歳になる息子が2歳の時に初めて読んだ本なんです。それも私から読んであげたんじゃなくて、保育園で教わってきて、『今日絵本読んであげるよ~』って言って自分から声を出して読み始めたんです。一言一句間違えないで。それから毎日保育園から本を持ってきて私に読み聞かせてくれました。自分も図書館の仕事をしていながら、あらためて本の力ってすごい、というのを子供から学びましたね」

※『ねずみくんのチョッキ』(作・なかえよしを/絵・上野紀子)は、主人公のねずみくんがお母さんに編んでもらったチョッキを、いろんな動物がやってきて「きさせてほしい」と頼まれるまま着させているうちに、動物の大きさに合わせてチョッキがどんどん大きくなってしまい、最後はゾウが着て伸びきってしまったチョッキを着たねずみくんがトボトボ帰るところで話は終わっている。しかし、本の奥付には、この伸びきったチョッキをブランコにしてゾウの鼻で遊ぶねずみくんの絵が小さく掲載されている。

「うちの子も、最初は奥付まで行かずに、ここで読み聞かせ終わりにするんですよ。で、なんでみんなに貸しちゃうんだろう、って自分でいつも言っていたんですけど、ある時自分で(奥付の絵に)気づいてびっくりしていました」

―とてもセンスを感じますね。今年は発刊45周年記念展が各地で行われているのですが、GWに予定されていた松屋銀座の展覧会から一旦延期になっているようです

「絵本や昔話は年齢に関わりなく読んでいただきたいものですね。例えば『桃太郎』の絵本は中央図書館だけで15種類あるんですよ。絵はもちろん、言葉も違うんです。そうした楽しみ方も図書館ならではと思います。『桃太郎』ではこの、松井直(ただし)先生のものが、底本(翻訳などの際に拠り所にする本)と今は言われています」

「私は高齢者の施設でお話をさせていただいた時に、色々な絵本の読み比べで日本語の美しさを感じていただきたい、という話をよくしました。また回想法といって、絵本の読み聞かせによって昔のことを思い出してもらう事で、高齢者の方を元気にし認知症の予防や治療にも役立つと言われています。」

 

『図書館は成長する有機体』

―2020年のコロナ禍を受けて、今後の図書館の役割とか、情報提供の手法などがどう変わっていくと思われますか?

「まず、人と人とのコミュニケーションにおいて、真ん中に本があることによる発展や広がり、というのは私の人生の中でも多く経験してきたことなので、これからのコミュニケーションの取り方の変化において、より本の果たす役割が大きくなっていく、と思っています」

「そうした中で図書館はどうあるべきか、ということは今後の課題ですが、どういうふうに必要とされるのかを見極め、必要とされるように図書館も変わっていく時期に来ているのかな、と感じています」

「日本では最初図書館は閉架式で、請求番号を申請して貸し出す方式だったんですよ。開架式になったのは戦後のことです。ここ(中央図書館)も戦後すぐの昭和23年(1948年)に開館して、昭和25年から今の位置にずっとありますが、まず自分で本を見たいというニーズに答えて開架式になって、ゆっくり本を調べたいから閲覧席ができて、音響や映像のコンテンツも所蔵するようになって、というふうに進化してきています」

「古い話ですと、90年も前にインドの数学者でランガナタンという人が『図書館の五法則』というのを唱えて図書館学の権威になられるんですが、その中に『図書館は成長する有機体である』というのがあります。それが私の図書館員としての基本でもあります。具体的なイメージはこれからですが、新しい生活に、利用者の方、地域の方がどう図書館を必要としてくれるのかを考え、一緒に進んでいくべきかな、と思っております」

 

廣瀬幸子(ひろせ・さちこ)

1961年東京生まれ
特別区などで図書館業務担当として勤務
2004年から図書館運営業務を行う株式会社ヴィアックス所属
2004年中野区立野方図書館勤務
2007年千代田区立図書館勤務
2008年板橋区立図書館長
2014年静岡県浜松立図書館長
2018年より現職

【中野区のお気に入りスポット】
上高田周辺(「『たきび』の歌発祥の地」「妙正寺川遊歩道」「中野通り桜並木」など)

「子育てしていた20年くらい上高田近辺に住んでいました。東京はどこも変化が激しいですが、哲学堂のあたりなどは在りし日がなんとなくまだ見える場所なので、懐かしいし、落ち着きますね」

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※掲載情報は全て記事取材当時のものです。