【中野人インタビュー】株式会社フジヤカメラ 取締役副社長 大月洋平氏

 

フジヤカメラ本店前にて

戦前から中野で80年以上にわたり営業を続け、新品・中古問わず豊富な品揃えで区民はもちろん、プロカメラマンの間でも有名なフジヤカメラ。今回は創業者から数えて3代目になる副社長の大月洋平さんに、お店の歴史や中野のフォトスポット、昨今のカメラ事情などについて伺います。

プロスノーボーダーとして過ごした青年時代

―創業家のご出身ですから、中野のお生まれですよね?

「はい、中野5丁目ですからまさにこのエリアです。小・中学校は中野で高校は新宿だったんですが、卒業後はプロスノーボーダーを目指し活動を始めました。23歳の頃に1社目のスポンサー企業と初めて契約を結び、その後は4年ほどプロとして国内外で活動をしていました」

拠点としていたアメリカでの練習風景

―スノーボード! 創業家のご出身で、思いきった決断ですね

「そうですね。将来フジヤカメラに入社するかもしれないとは思っていましたが、社会に出ていきなり入社するという事はあまり考えていませんでした。やはり家業だとどこかで甘えが出てしまうと思い、まずは修行としてカメラ業界の企業に就職するか、それとも全く畑違いの業界で経験を積むかなどいろいろと悩んだ結果たどり着いたのが、当時自分が一番熱中していたスノーボードを突き詰めてプロを目指すという、周囲は全く想像していなかった道でした(笑)野球やサッカーなどに比べればマイナースポーツなので、シーズンオフは工事現場でアルバイトをしていましたが。」

―マイナーなんですか!? オリンピック競技なのに

「本当にスノーボードだけで生活できていたのは当時の国内ではほんの一握りでしたね」

スノーボーダーとして雑誌に掲載されたことも

―プロ4年間、とするとフジヤカメラには27歳で?

「はい。27歳で入社してから約12年間は業務用の映像機材やオーディオ機材を扱うフジヤエービックに所属し、店長、営業部長と現場中心の仕事をしてきました。一昨年のフジヤカメラ、フジヤエービックの統合を機に今の役職に就き、現在は現場から一歩下がり経営全般を見ています」

文化人が多く住んでいた中野

―創業は昭和13年(1938年)ですから戦前になるわけですが、当時のお話とかは聞いてらっしゃいますか?

「最初は薬師銀座に小さいお店を構えたのが始まりと聞いています。今の薬師あいロードですね。昔はあの辺の方が栄えていたようです」
「先々代(創業者で私の祖父)は元々船乗りで、ドイツ航路の大型貨物船に乗っていました。ドイツでライカカメラを買って帰ってこちらで販売した、というのがそもそもの商売の始まりだったようです」

―戦前から他の街に比べても中野が比較的商業の盛んな地域だったのは理解しているんですが、時計やカメラなどの精密機器系のお店が中野に多いのは何か理由があるんでしょうか?

「その辺は私も社長もはっきりしたことはわからないんですが、当時から中野にはいわゆる文化人の方が多く住んでいて、そうした方たちにカメラや写真のニーズが高かったようです。昔は小さな写真屋さんもいっぱいあったと聞いています」

―戦後すぐの時期に、知識層がお金をかける趣味と言ったら、確かにカメラや時計が筆頭になるかもしれませんね

カメラ好きのコミュニティを生んだ「下取り交換システム」

―おそらく同じような主旨でスタートした、御社から見れば後発のヨドバシカメラさんやビックカメラさんが家電にシフトしていく中で、フジヤカメラさんは中古新品問わずカメラ一筋という歴史を歩んでいます

「下取交換というビジネスモデルを導入していなかったら、今の当社は無いでしょうね。カメラの新品は昔に比べ薄利な商材になってしまったので、新品だけを扱う同業者は次々廃業していき、今残っているのはヨドバシカメラさんやビックカメラさんのような量販店と一部の専門店のみになってしまいました」

―下取り交換というとクルマと一緒ですね。新品派も中古派もこのお店に来るんですね。沿革を拝見すると、昭和30年(1955年)から分割クレジット販売が増加し、昭和46年(1971年)に中古カメラ販売拡大、とあります

「そのすぐ後くらいに、通販も始めています。電話通販ですけどね」

―いずれにしてもかなり早い時期からの取り組みですよね

「当時の割賦販売は、今に比べるとかなりハイリスクだったと思います。担保になるような物を預かるわけにもいかないですし。ただ取りっぱぐれも覚悟ではじめたところ予想以上のニーズがあり、懸念していたトラブルもほとんどなかったと聞いています」

―お客さんとお店の信頼が成り立っているわけですね。今でもお店を訪れるとお客さんと従業員の方がいつもいろいろお話をされていて、ちょっとしたカメラ好きのコミュニティになっているような印象を受けます

「そうですね。カメラはもちろんオーディオ好きの従業員も多く、商品の魅力を理解している従業員が多いという点はお客様に評価頂けていると感じています」

―お客さんから見た中古カメラの魅力ってなんでしょうか?

「これはカメラに限らずですが、高価な新品は予算オーバーで諦めていた方達でも手が届きやすくなるという点が、中古の最大の魅力だと思います。日本の中古品は海外に比べ品質が良いですし。中古商品には若い方達からも注文が多く入ります。当社をご利用頂いた事でできたつながりを活かし、今は学生さんや駆け出しのクリエイターなど、若い人達を応援する取り組みも行っています」

―若い人というと、カメラマンの卵みたいなイメージですか?

「そうですね。以前に中野で開催されていた新人監督映画祭であったり、映画甲子園や学生映画祭などのイベントには会社として機材提供や協賛として協力させてもらっています。」

「その他には、今後5Gの普及で企業や大学、専門学校などが動画配信を行う機会は増えていくだろうと思っています。そういった時代の流れもあって、機材の販売だけでなくWeb配信全般を請け負う事業部として“A Production”という事業部を一昨年立ち上げたので、小売り以外の部分でも写真や動画の事で困った時はフジヤカメラ、と頼られる専門店でありたいですね」

「新しい生活様式」で変わる事業形態

―Web配信は、今回のコロナ禍でより一層需要が加速することになりますね

「そうですね。うちでもライブハウスの無観客ライブ配信などに携わっています。全国規模で展開している企業のセミナー配信もやっていますし、あとは医療関係の配信の仕事も増えてきています」

―医療ですか?

「例えば手術のシーンを撮影して、それを医師会のセミナーで配信するとかですね」

―なるほど、写真じゃわからなさそうですものね。本来5Gや4Kが普及することで発展するビジネスだと思いますが、コロナ問題でより注目されることになりそうです。店頭販売の視点から、今後この問題を受けて変えていかなければならないことなどはありますか?

「店舗集客はやはり減少しましたが、その分ECサイトの売上が大きく伸びています。まずはサイトをもっと使いやすいものに進化させていかなければならないという事が直近の課題ですが、とはいえ当社は接客力も強みだと思っていますので、年配の方でもご利用頂けるようなハードルの低いオンライン接客システムの実装も急ぎたいと思っています」

「一方で実店舗を持つ意義として、例えば店舗横にギャラリーを兼ねたカフェを併設するなど、フジヤカメラに行く楽しみも追及していかなければならないと思っています。」

中野で生まれ育った者は、なかなか中野を出ていかない

―中野という街の魅力について、中野で事業をされている立場からはどういった点が挙げられますか?

「創業当初は先ほどお話した文化人の集まる街、という点が商売に寄与したわけですが、この10年20年、中野は”サブカルチャーの街”というイメージがどんどん根付いてきましたよね。そこが一番の魅力だと思います。またうちにとってもかなり追い風になりました。実際、業績自体もこの10年20年の伸びが大きかったですし。“サブカルの街”というイメージの定着には、だいぶ後押ししてもらったと思います」

―中野生まれ、中野育ちの一個人としての中野の魅力はどんなところでしょう?

「中野はそれほど広くないエリアに、安い赤ちょうちんから高価な商材を扱う専門店までいろいろなジャンル、カテゴリーの店が混在している街で、訪れる人も若い人から年配の人までさまざま。もう40年以上住んでいますが、未だに特殊な街だというのは強く感じます。」

「数十年の付き合いになる地元育ちの友人も多くいますが、ほとんど中野を出ていかないですね。最終的に中野で商売を始める連中も多くて、同級生や先輩、後輩が経営する飲食店はそこらじゅうにあります。そういった友達たちの店を飲んでまわる事は、私の中で最高の癒し時間です。楽しい街ですね。本当に」

 

大月洋平(おおつき・ようへい)

1979年6月19日、フジヤカメラ創業家の3代目として中野区に生まれる
プロスノーボーダーを経て、2006年フジヤエービックに入社
2018年から現職

 

【フォトジェニックな中野】
中野新仲見世商店街

カメラ専門店の目線から、中野の穴場フォトジェニックスポットをご紹介してもらいました。
「中野新仲見世商店街というレトロな一角があるのをご存知ですか? サンモール商店街とふれあいロードの間のあたりです。私の飲み仲間に著名なカメラマンさんがいて、ここでモノクロ写真をよく撮っているんです。それを見て、雰囲気のある写真を撮れるスポットだな、と」

中野新仲見世商店街からワールド会館を臨む一角


【最新カメラ事情】
この日は専門店目線での注目カメラを2種、お持ちいただきました。

(左)SONY/PXW-FX9 (右)SONY/α7RⅣ

「フィルムカメラからデジタルカメラへの移行はカメラ業界にとって大きなターニングポイントだったわけですが、一眼レフからミラーレス一眼への移行もそれに匹敵するといっても大げさではないインパクトを業界に起こしています。カメラ市場がシュリンクしていく中ではミラーレス市場はまだ元気ですね。ミラーレス需要の増加のおかげで、カメラ市場の極端な落ち込みはなんとか持ちこたえられているような状況です。競争の激化するミラーレス市場で勝ち組に躍り出たのはソニーですね。写真の画質はもちろんですが、4K動画の評価もかなり高いです。このカメラ(写真右)はレンズ込みで約60万円くらい。プロでもこのミラーレスを動画制作のメイン機で使っている方がいますし、テレビCMもこれで撮影したものがあるくらいです」

※ミラーレスカメラ…光学式ファインダーの代わりに液晶ディスプレイなどを通じて被写体を確認するデジタルカメラの総称

【中野区のお気に入りスポット】
昭和新道

「外食やお酒が好きな人には自信を持ってお勧めできるスポットです。駅から近いですが、一本裏通りに入るだけで独特な雰囲気のある場所なんです。雰囲気だけでなく隠れた名店も多く、時間を見つけては飲み歩いています(笑)」

※問い合わせ先の記載がない記事については、まるっと中野編集部までお問い合わせ下さい。
掲載場所近隣の区民の皆様に直接お問い合わせすることはご遠慮いただきますよう、お願い申し上げます。

※掲載情報は全て記事取材当時のものです。